ふかきあきじ

知財について

PCT出願のクレーム数についての基本的な考え方

1.クレーム数についてのPCTの規定

 特許協力条約(PCT)ではクレーム数の制限は厳しくなく、規則6.1(a)において「請求の範囲の数は、請求の範囲に記載される発明の性質を考慮して妥当な数とする。」とされています。したがって、クレーム数をいくつにするかは、発明の性質と、移行国の法制(手数料等)を考慮して決めます。

 クレーム数は、マルチマルチクレームが認められるか否かに影響を受けます。マルチマルチクレームは、複数従属クレームに従属する複数従属クレームのことです。例えば、請求項1及び2に従属する請求項3と、請求項4とに従属する請求項5は、マルチマルチクレームと呼ばれます。

 PCT規則6.1(a)第三文は「多数従属請求の範囲は、他の多数従属請求の範囲のための基礎として用いてはならない。」とし、同規則第四文は「国際調査機関として行動する国内官庁に係る国の国内法令が多数従属請求の範囲を前二文に規定する請求の範囲の記述方法と異なる方法によつて起草することを許していない場合において、前二文に規定する請求の範囲の記述方法に従わないときは、国際調査報告に第十七条(2)(b)の規定に基づく表示をすることができる。」としています。

 したがって、国際調査機関として行動する国内官庁がマルチマルチクレームを認めない場合、マルチマルチクレームについては国際調査報告が作成されない可能性があります。しかし、日本国特許庁を受理官庁とした場合、国際調査機関として選択することができる日本・欧州・シンガポールのいずれの特許庁もマルチマルチクレームを認めているため、問題とはなりません。

 また、PCT規則6.1(a)第五文は「実際に用いられる請求の範囲の記述方法が指定国の国内法令の要件を満たしている場合には、第二文又は第三文に規定する請求の範囲の記述方法に従わないことは、当該指定国においていかなる影響も及ぼすものではない。」としていますので、日本国特許庁が受理官庁であって、指定国(移行国)の国内法令がマルチマルチクレームを認める場合には、マルチマルチクレームで記載しても問題ありません。

 

2.日米中欧を考慮したクレーム数

 例えば、日本、米国、中国、欧州に移行を予定している場合、マルチマルチクレームを活用してクレーム数を抑え、なるべくクレーム数を15以内とします。追加手数料が気にならない場合は15を越えても問題ありません。

2-1.理由①

 16以降のクレームには欧州で高額の追加手数料が生じるためです。中国においては11以降のクレームに追加手数料が生じますが低額です。

 

日本

米国

中国

欧州

追加手数料がかかるもの

1つ目から

21以降の

クレーム

11以降の

クレーム

16以降の

クレーム

2-2.理由②

 追加手数料が高額な欧州ではマルチマルチクレームが認められているためです。米国と中国ではマルチマルチクレームは認められませんが、移行の際に補正可能です。

 移行予定国にマルチマルチクレームを認める国がない場合にはマルチマルチクレームとしない方が移行の際の手間と費用を節約することができます。

 一方、マルチマルチクレームを認める国がある場合には、マルチマルチクレームで書いておいた方が、少ないクレーム数で発明を網羅的に表現することができます。

 

日本

米国

中国

欧州

マルチ

可(追加料金)

マルチマルチ

不可

不可

 

3.日米中欧を考慮した独立クレームの数

 独立クレームの数はなるべく3つまでとし、かつ、1カテゴリにつき1つまでとします。独立クレームの数を減らすためには、「A、B 又は C」のように選択的な表現を使用すると良いです。

 

3-1.理由

 米国では4つ目以降の独立クレームにかかる追加手数料が高額であり、また、欧州では1カテゴリにつき1つの独立クレームというのが原則となっているためです。

 

日本

米国

中国

欧州

独立クレームの

数の制限

なし

4つ目から追加手数料

なし

1カテゴリに1つが原則

  欧州において同一カテゴリで複数の独立クレームが認められる例外については下記リンク先をご覧下さい。

http://ryuuji11itou16.hatenablog.com/entry/2016/10/05/163358