ふかきあきじ

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元号を表示する商標の審査基準の改訂について

元号を表示する商標について商標法第3条第1項第6号の商標審査基準が改訂され、2019年1月30日から審査に適用されています。新元号が2019年4月1日に公表され、2019年5月1日に「平成」から新元号になることを考慮した改訂と思われます。

 

1.改訂の内容

 改訂前の商標法第3条第1項第6号の審査基準には以下のような記載がありました。

4.現元号を表示する商標について

商標が、現元号として認識される場合(「平成」、「HEISEI」等)は、本号に該当すると判断する。

 これが以下のように改訂されています。

4.元号を表示する商標について

商標が、元号として認識されるにすぎない場合は、本号に該当すると判断する。元号として認識されるにすぎない場合の判断にあたっては、例えば、当該元号が会社の創立時期、商品の製造時期、役務の提供の時期を表示するものとして一般的に用いられていることを考慮する。

 これにより、現元号に限らず、元号として認識されるに過ぎない場合には、商標法第3条第1項第6号に該当すると判断することとしています。2019年5月1日に「平成」が新元号になったとしても、「平成」の元号を表示する商標の登録を認めないこととする狙いがあるものと考えられます。

 弁理士試験対策として、「現元号」は商標法第3条第1項第6号に該当すると覚えるように指導を受ける場合が多いですが、これからは、現元号に限らず「元号として認識されるにすぎない商標」は商標法第3条第1項第6号に該当すると覚えることになります。

 

2.「元号として認識されるにすぎない場合」とは

 元号として認識されるに過ぎない場合の判断にあたっては、当該元号が以下のものを表示するものとして一般的に用いられていることを考慮することとしています。

 ・会社の創立時期

 ・商品の製造時期

 ・役務の提供の時期

 元号がこれらのものを表示するものとして一般的に用いられているかを考慮するのであって、これらのものを表示する商標に限られません。

 したがって、商標としてではなく、単に会社の創立時期などを表示する際に一般的に使用されている元号であっても、原則として登録にならない点に注意する必要があります。

 

3.古い元号について

 「明治」「大正」「昭和」「平成」といった元号は、会社の創立時期を表示するものとして一般的に用いられているため、元号として認識されるにすぎない場合に該当することになると考えられます。

 一方で、江戸時代の元号である「弘化」「万延」「元治」など、古い元号は、上に挙げた会社の創立時期などを表示するものとして一般的に用いられているものとは言えず、登録になる可能性はあると思います。

 

4.元号と他の言葉との組合せについて

 例えば、「平成まんじゅう」を商品「饅頭(まんじゅう)」に使用する場合、商標法第3条第1項第6号に該当するのかという点については、商品「饅頭」に対して「まんじゅう」という文字は識別力を有さないため、識別力のないもの同士の組合せとして、原則として商標法第3条第1項第6号に該当します。

 このことは、審査基準の改定前(2018年6月)に、旧元号についても商標法第3条第1項第6号に該当することとする旨を公表した特許庁のWEBサイトのページ(下記リンク先)に記載されています。

www.jpo.go.jp

 

5.ローマ字、カタカナ表記の場合の取り扱い

 旧審査基準に「HEISEI」の例示があることから、元号をローマ字やカタカナ表示にしただけでは、基本的には商標登録を受けることは難しいと考えられます。

 ただし、「大正」をローマ字にした「TAISYO」やカタカナにした「タイショー」は、「大勝」「大将」「大笑」など、別の観念が生じ、必ずしも元号として認識されるものではないため、登録になる可能性はあると思います。

 「明治」「昭和」「平成」に関してはローマ字、カタカナにしても元号の観念が生じてしまうように感じます。

 

6.例外的に登録を受けられる場合

 商標の使用により全国的に著名になっている場合など、使用による特別顕著性が認められる場合には、商標法第3条第1項第6号にいう「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」には該当せず、登録を受けることができます。

 このように、元号を表示するものだから絶対に登録にならないということではなく、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」に該当するか否かを個別具体的に判断することになります。

 

www.jpo.go.jp